それはいらない 6
バーで談笑する2人。
グラスを傾けながら、丁度そこに設置してあったダーツを見つけ互いに投げ合うが、Aが負けBがガッツポーズを上げると、Aが席に戻り、再び談笑に入る。
A「学生時代はコントロールの良いピッチャーだったのにな」
B「もう20年くらい経つのか。俺は今でも草野球でたまにやってるから、お前よりかはマシかな。あっお前も来いよ」
A「え!? ダメダメ。卒業以来運動っていう運動なんかしてないもん。それに仕事が忙しくて、休みの日なんかはずっと寝ちゃってるし」
B「勿体ないなあ。まあそのうち来たくなったら声かけてくれよ。お前の知ってる中崎とかもいるから」
A「中崎? 懐かしいな。元気にしてるのかよ」
すると、突然奥で一人飲んでいた初老の男Cが話しかけてきた。
C「お前、駒田だろ?」
面食らうAとB。
その様子を見ることもなく畳み掛けるように
C「そこの、グレーのスーツのお前だよ。駒田だろ?」とBを指差す初老の男C。
Bは恐る恐る
B「いや、私は駒田という名前では……」
C「いや、駒田だよ。嘘付いてもわかる。お前は駒田だ」
A「きっと酔ってるんだよ。適当に相手して、店出よう」
C「酔ってないよ! そしてお前が駒田だっていうのもわかる」
B「おじさん何言ってんの? さっきから、俺は駒田じゃないって言ってるじゃない! 人違いですよ!」
C「かまえてみろよ」
さらに面食らう2人。
A「かまえるって何を、ですか?」
C「バッティングフォームに決まってんだろ。駒田じゃないってんなら、フォームが違うはずだ」
B「おじさん、さっきから駒田、駒田って、あの駒田のこと言ってんの?」
C「そうだよ。それ以外の駒田なんかいるのか? 俺は知らない」
A「えっ、あの満塁男の? とても顔も似てるとも言えないし…」
C「違うってんなら、かまえてみろよ」
そう言われてBはしぶしぶバットを持つようにその場でかまえてみせる。
C「やっぱり駒田じゃねえか!」
B「いやいや、違うって」
A「こいつがどちらかというと駒田よりにしただけで、お前もノるなよ」
C「いや、駒田だよ。間違いない」
B「本当、勘弁してよ。駒田じゃないって。俺にも失礼だし、駒田にも失礼だよ!」
C「かまえろよ。後一回見て違ったら、諦めてやる。かまえろよ」
B「もう、しょうがないなあ」
C「やっぱり駒田じゃねえか! 嘘ばかりつきやがって」
B「じゃあ、百歩譲って、俺が駒田だとしよう。何なの? 何か用ですか!」
BはCに食って掛からん勢いで詰め寄っていく。Aはケンカにならないよう、Bの腕を持つ。
そしてCが振り向く。
A・B「田淵じゃねえか!」
Fin
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