レバ刺しを食わせろ

思ったことを間違ったまま書いている

かわいそうなおっちゃん 7

隣国の王は憂いていた。

突然の王の訪問に一方ならぬ不安を抱いていた。遊牧民とのトラブルからの訪問としては各国で取り決められたルールに則った形からの訪問だということは分かっている。

実際、王が遊牧民のいる場所へ向かったという情報も得ているし、その後の展開も大体読めていたはずなのだが、この根拠のない胸にある不安が拭いきれない。

王と隣国の王は義理の兄弟である。

隣国の王の妹が王の妻である。その兄である隣国の王に今回の遊牧民達とのトラブルを詫びに来た、ただ単純にそう考えられないだろうか、考えられないからこそ憂いているのだ。

目の前に王が何も言わず立っている。その左手には大きな布の包みを持っている。

その生地からは多くはないが血が滲んでいる。その包みの中が何なのかは察しがついている。私はこの王にどんな言葉を掛ければ良いのだろう?

隣国の王は何も言えずただ立ち尽くす王を玉座から見下ろしていた。

王は隣国の王の言葉を待っていたのだろうか。しばらくすると大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出すように

「私の国で起こったことだ。私の独断ではあるが、それも私の国だからできること、今回の貴方とのトラブルは避けられたと思っているが、それで良いかな?」

王は左手の包みを放り投げ、おもむろに布を広げ始めた。

隣国の王は理解はしていた。理解はしていたが、これが今回のトラブルだけのことの話ではないことも推察していた。

隣国の王はずっと口を閉ざしたままだった。大きな声で叱責をすることもできた、高らかと笑って王の肩を抱き酒を酌み交わすこともできた、ここぞとばかりに連合を組み遊牧民を滅ぼそうと提案することも出来た、が、何も言えなかった。

王は何も言わない隣国の王に軽く会釈をし踵を返し部屋を出て行ってしまった。

王は休む間もなく自国へ帰るよう家臣達に促した。

王の顔は嬉々としていた。もう迷うことはない。王の胸の内は決まっていた。そうだ、私の国なのだ。私が決めたことは、全てが正しく否定できる者など誰もいない。

妻と娘を処刑しよう。せめて私の手で。

そう心に決めた王の足取りはまるでスキップをしているようにも見えた。