ジョニーの話を盗られた話
以前、ロッテに黒木というピッチャーがいて、「ジョニー」という愛称で人気のあった当時のエースである。
チームの15連敗中に先発した黒木は1点リードのまま9回を迎えてマウンドに立つが、あと少しで連敗脱出を目前に、同点のホームランを打たれてしまう。
あまりのショックにマウンド上に座り込み、涙を流してしまったジョニー。
チームメイトが励ますも、結果は延長に点を取られてそのまま16連敗に。
というエピソード。
当時僕は、とある居酒屋のオフィスに間借りをし、仕事をしていたのだが、その居酒屋の経理担当の人とよく野球の話をしていた。
上記のエピソードがあった翌日、当然のようにその人とジョニーの話になったのだが、その人がいうには、
・プロのくせにマウンドで泣くなんて失格だ
・男はじっと耐えなければいけない
みたいなことを言うもんだから、反対に僕は、
「プロだけど、チームのために泣くなんて人間らしくていいじゃないですか。そういう普段観れない場面が観れると野球っておもしろいなあって思いますけど」
と反論した。
その時はその人も「う〜ん、そうかな? 僕はそう思わないからなあ」と答えたのだが、しばらく1週間だっただろうか、いやもっと経ったのだろうか、いつものように野球の話になった時、その人が
「そう言えば、あのロッテの黒木が、9回にホームランを打たれてマウンド上で男泣きしたあのシーン、オゼキくん覚えてる? あれは男として人間味があって、好感がもてるねえ」
あれ? それ、その話、俺の、俺のジョニーの気持ちのヤツ!
完全に盗られた。しかも言った本人に言ってくるとは。
ほら、僕はやさしいから。十字架を背負ってゴルゴダの丘へ登っているイエスにその十字架をチョイ持ちしたっていう逸話もある僕だから、「それ僕の!」って言わなかったけど。
その人その会社を退職したって聞いたけど、何をしてるのかなぁ。