銀行の営業担当が使えないバカだ!
と、頭の中で呪文のように唱えながら帰路につくと、
「第62回 滋賀県母親大会」の、のぼりがあった。
年1回という計算でいくと、62年の歴史を持つこの大会は、
「母性を競う」ということなのだろうか。
各カテゴリーの中でそれぞれの1番を競い、最後に一番「母親」と呼ぶにふさわしい人を決める、そんな大会なのではないか。会場の客席からは「お母さん、頑張って!!」の横断幕や、「滋賀の母を目指せ!」とか声援が聞こえるのだろう。
1つ目の審査は「おふくろの味」。それぞれが料理を行い、審査員たちに食べてもらって品評していく。その料理のエピソードなんかもあればなお良い。
「エントリーナンバー1番 星野美和子。 豚の角煮を作りました。これは息子がテスト前日になると必ずリクエストしてくる料理なんです。我が家では『勝負の角煮』と呼んでいます。」
「エントリーナンバー5番 及川沙織、私の作った料理は『サバサンド』です。普通のサバサンドに少しマヨネーズを多めになってます。夫とケンカをしてなんだか仲直りしにくい時に、これを作れば私からの『ゴメンね』という合図というのが、暗黙の了解になっています。」
62回もしてると、毎年常連の、前回まで2連覇を達成している猛者も出ているはず。
「エントリーナンバー27番 嶋野圭子。フフッ、毎回毎回で申し訳ないんですけど、『みそ汁』です。あ、でもね、おだしは色んなお魚からとってるのよ。夫や子どもたちは『オカンのみそ汁飲んだら、他の飲まれへんわ!』って、えっ、前回も聞いた?(笑)」
と、貫禄のコメントである。会場内からは「さすが」や「ダントツやな」とかいう声が聞こえる。
そして2つ目の審査は「母親らしい一言」という指定で、各々が会場に上がって一言決め台詞を発する。ここで会場はヒートアップしていく。
星野美和子「アンタ、明日早いねんから、はよ寝ーや!」
及川沙織「トイレ終わったら電気消しー!」
嶋野圭子「骨付きカルビは、骨の周りが一番おいしいねんってヒルナンデスで言ってた、食べてみ」
優勝候補の嶋野圭子の意表をついたセリフに審査員たちの反応もまずまず。しかしここでダークホースが出現する。
前田祥子「昨日いものたいたん作ったけど食べるか?」
上京した息子が突然家に帰ってきた様子が思い浮かぶセリフである。
これには嶋野圭子も苦虫を噛み潰したような顔で前田祥子を睨みつける。
そして最後の審査は「母親としての子育て、オンナとしての生き方の両立」というテーマでの指定討論。母親たちの熱を帯びた言葉に、会場も興奮のるつぼと化す。
やはり最後は嶋野圭子、もっとも母親らしい一言でこの節を締めくくるのだ。
嶋野圭子「ほら、子どもたちがね、大きくなって、子育ても終わったかなあって思った時に、お父さ、主人に、『少しこの家寂しくなったわね』って言ったら、主人が『元々2人やったやんか、これでええんよ』って言ってきて、ワタシ、ヘェ〜って。え〜って。(涙目)そしたら次の日、上のお姉ちゃんから電話かかってきて、『お母さんの作ってたきんぴらごぼう、今度帰るし教えてな』って。ワタシ、ヘェ〜って。え〜って。(涙目)」
伝家の宝刀、「ヘェ〜って、エ〜ッって」である。オチを全てこのセリフで片付けるのはお母さんあるあるでお馴染みである。この言葉で大会は嶋野圭子の3連覇で幕を閉じた。
っていうとこまで考えながら今日は出勤した。