レバ刺しを食わせろ

思ったことを間違ったまま書いている

かわいそうなおっちゃん 8

王は妻と娘に部屋に来るよう促した。

特段出発する前と変化はないはずだったが、何かがこの部屋の居心地を悪くしていた。それが何なのかはわからない。何かが渦巻いている、マーブル模様の何かが王の胸を締め付けていた。

だが、妻と娘はやってこなかった。

何かを悟ったからではない、ただ向こうに行く理由がないから来なかったのだ。

王は顔を手で覆い、しばらく動かなかった。それを見た者は表情ともとれない、王の顔からは血の気もないかのような、まるで人形がここにあるかのような表情に恐怖を覚えたという。

王はゆっくりと立ち上がり、少しの従事者を引き連れて男娼館へと馬を走らせた。

扉を開けると5人ばかりの男と女たち数人が寄り添いながら談笑している。扉近くにいた男が突然の来客に気づき近づいてくる。あたりは薄暗いためかお互いの表情はよく見えず、男が王だと気づくのには多少の時間を要した。

「妻と娘はどこだ?」という言葉にそこにいるのが王だとようやく気づいた男は王には何も言わず奥へと走り出そうとしたその瞬間、王が剣を一振りそれが男の首元に突き刺さったのだ。

剣の突き刺さる鈍い音と男のなんとも言えないうめき声で他の者たちも突然の王の訪問に気づいたのだ。

気づいたのも束の間、王は無差別に男と女を次々と斬りつけ顔を見ては「違う」と言い、また斬りつけ、また斬りつけを繰り返していた。

男と女たちはパニックに陥っていた。突然の訪問に突然無差別に殺される惨状を従事者たちは王を止めることなくただじっとしていた。

奥の別の扉から不穏な叫び声に気づいた女と男が出てきた。

「あっ」

女は王を目の前にしてすぐさらに別の扉へ走り出そうとしたが、足を斬られうずくまってしまった。それは娘だった。娘は一緒に出てきた男を探そうと目を配ったが男はすでに刺し殺されていた。その無惨な男の表情に恐怖を増長させ声を振り絞って叫ぼうとするも声にならない。

王は娘の前に立ちはだかり、まるで小虫でも見るかのような表情で

「何か、許しを請う、か?」

と言ってみたものの、娘を恐怖のあまり失禁し、ただ王を見るだけだった。

王は表情を変えることなく剣を振り上げそのまま剣の重みに身を任せるがごとく娘の体に剣を叩き付けたのだ。

痛みのあまりのたうち回る娘を背に次の扉を開けようと力任せに剣を叩き付ける。

何度か叩き付けるうちに、あと少しで打ち破れそうだった扉の隙間から男がつぶやくように

「わ、わかりました。すぐ開けます。開けますから少し下がってください。」と声を震わせながら言うのだ。

王は応答することなく下がった、途端、突然扉が開き、中にいた男と妻が飛び出してきた。その勢いで男と王がぶつかり、王は少しよろめいたがすぐに男の腹に突き刺していたのだ。

王が倒れた隙に逃げようと試みた妻は男の無惨な姿に恐れ戦き王を見ることなく、

「ひぃ、ゆ、許して、これから、これから、ちゃんとしますから!」泣き叫びながら嘆願する妻を見下ろし、王は口を開いた。

「ここは私の国だ。いわば私の世界なのだ。私の言葉は絶対でなければならない。私はお前たちに部屋に来るように命じた、が、来なかったのだ。その罪は重い。もう一度言う。ここは私の世界なのだ」

言い終わるやいなや王は妻の胸元に剣を向けそのまま突き刺した。

この男娼館にいる者は王とその従事者を除いて全て殺されてしまった。王はその後も妻と娘に剣を向け、力の限り叩き付けている。

後に男娼館を訪れた遺体の処理をしに来た男は聞いた遺体の数と実際処理をした数が2人足りないことに疑問を抱いていた。