レバ刺しを食わせろ

思ったことを間違ったまま書いている

かわいそうなおっちゃん 6

王達はゲルの中にいた。

突然の王の訪問に遊牧民達は驚きを隠せないでいた。あいにく遊牧民の王は周りの者を連れ立って狩りに興じているらしい。

王は「戻ってくるなら」としばらく待つことにした。

時間はないようであるような、いや、今こうしている時こそ、全てを解決させる方法を思いつかないかと何かきっかけを待っていたにちがいない。

王はゲルの中に座り込み、その膝元を台にして頬杖をついていた。

目の前に出されたソーダ水にも全く手に付けず、ずっと待っていた。

どのくらいたったのだろう、外はすっかり夕焼けに染まっていた。

ソーダ水の気泡が全て無くなる程だろうか、遊牧民の王はようやく帰ってきたのである。

「来ると分かっていたら、こんなに待たせなかったのに。お待たせした」

遊牧民の王はぶっきらぼうに招かずの客を労った。

「それで、何の用ですかな」

まるでイヤミのように聞こえるその言葉は一瞬、王の側近たちの怒りを買いかけたが王がそれを静止するかのように口を開いた。

「遊牧の王よ。私は迷っている。今回の問題を解決する方法はいくらでもあるようにも見えるが、少し事情があってな。一つ浮かんではいるのだが、それに踏み込むことができないでいる。遊牧の王よ、お前には息子がいるか?」

遊牧民の王は王の言葉を聞き終わるとふとゲルの入り口の青年を見やった。

それはとても屈強な男で、聡明な顔立ちをしている。

王はその青年を見ると遊牧民の王がいる方向に向き返り、

「立派な跡継ぎがいるんだな」と言ったその後、一閃、剣を抜き放ち、遊牧民の王の首を切ったのだ。

周りはあまりの突然の出来事に絶句し、動けないでいる。

そこには血しぶきを上げて横たわる遊牧民の王と血の付いた剣をぬぐい一息つく王の姿だけが照らし出されたようだった。

「遊牧の王の息子よ。今からお前がこの遊牧民の王となれ。私はこれから隣りの国に行ってこの前王の首を差し出してくる。これでこの問題は解決するのだ。」

遊牧民の王の息子は立ちつくしたまま、動けずにいる。

「私が憎いか。しかし、これが私の国のやり方だ。今までは違ったのかもしれないが、私がこの国の王なのだ。これからは私の国に来るのなら私のやり方に従ってもらう。お前達が兵を集めようと無駄だ。すでに私の兵達はお前達の兵のいるゲルの周りを火を持って取り囲んでいる。」

苦虫を噛み潰したような表情で王を睨みつけていた遊牧民の王の息子だったが、観念したかのようにひざまづき、

「王の命に従います」と許しを請うたのだ。

王はその言葉に安堵し、大きく息をついた。

「私の国にいるときはこれまで通り好きにするがいい。だが、隣国や私の国の者との諍いは許さない。もし何かある場合は問題になった者を断罪し、詫びなさい。以上だ」

そう言って王はゲルを後にした。