レバ刺しを食わせろ

思ったことを間違ったまま書いている

かわいそうなおっちゃん 5

王は馬車に揺られながら思案にふけっていた。

まるですべてを遮断するかのように、目を瞑り、誰にも声を掛けられることもなく、1日が過ぎていった。

途中、オアシスを見つけ、休憩することにした。

側近達は王をとてもきれいな水場へ王に口を潤すよう促した。

王は水をすくい口へ含もうとすると、どこからともなく小さな女の子が水を汲もうと、自分の半分くらいもあろうかというバケツを持ち、王の隣りで水を汲み始めた。

側近達はあわてて女の子を止めようとしたが、女の子は何が起こったのか分からず、ただ怯えているだけだった。

そして隣りにいる者が王だと知り、さらに怯え出したのだ。

側近達の大きな声を聞いたのだろうか、その女の子の母親と女の子よりは一回り大きな男の子を引き連れやってきた。

母親は王の姿に驚き、女の子が何か粗相をしたのかと大きな声で叱り、女の子の頬をずっとひっぱたいていた。さらにその父親であろう男がやってきて、母親を止めるのかと思えば、逆に母親より強い調子で、女の子の意識がもうろうとするまで殴り続けるのだ。

王はその姿に顔をしかめ、ついに止めようとしたその時、その女の子の兄であろう男の子が父親から女の子を引き離そうと父親の腕を噛んだ。

父親は驚き、しばらく立ち尽くしたが、王の前で恥をかかされたとでも思ったのか、さらに大きな声で怒り、今度は男の子を力一杯殴り続けたのだ。

王はその姿に辟易し、側近に父親と母親を捕えるよう促した。

男の子は顔中アザだらけになり、女の子も顔を腫らしながらずっと泣いている。

王はこんな親の元で育つより、他のものに育たせた方がこの子達にとっては幸せなのではないのだろうかと思案したが、この子達にも選ぶ権利があり、この子達に決めさせた方が良いのだろうと、子どもたちだけを王の前に呼び寄せ、

「お前達はこの親の元を去りたいか、それともこのまま親の元でずっと生活したいか」と、問いかけた。すると男の子が、

「親の元を去るならもっと前に出来ていました。でも、まだ妹が小さいし、僕もまだまだです。ただ、これだけは決めています。僕はこれからもっともっと強くなって近い将来父親と母親を殺します」

こんな小さな男の子にこんな思いがあるなんて思いもよらなかった。王は心底驚き、男の子の目をじっと見つめていた。

王は捕えたこの子達の両親を王の前へ連れてくるよう命じた。

父親と母親は処罰されるのではないかと恐れ戦き、ずっとうつむいている。

王は後ろ手にしばった縄をほどかせ、子どもたちを連れて帰るよう命じた。

男の子が帰る前、王は呼び止め、忍ばせていた短剣を男の子に渡し、「お前が事を成し遂げたとき、妹と共に私をたずねるがいい。悪いようにはしない。これは私をたずねる時に門番の者に見せるがいい。」

男の子はだまってうなずき、懐に短剣を忍ばせて妹と両親の元へ走っていった。