かわいそうなおっちゃん 4
隣国の国境地帯に屈強な遊牧民達が居を構えていた。
遊牧民達は家畜を愛し、自由を好み季節が変わると住みやすい場所を求めて移動を繰り返すのだが、今の夏の季節は比較的涼しい王の国の領域内にいることが多く、事件はそこから起きた。
隣国の者が言うにはその国境近くで狩りを楽しんでいると突然遊牧民達が襲いかかり、数人程の死者と数十人程のけが人が出たというのだ。
遊牧民達を受け入れている諸国の王達はその時起こった彼らのトラブルはその国の者が責任を持つという取り決めをしていた。
だから遊牧民達がやってきた情報を得ると諸国の王達はわざわざ彼らのいるキャンプへ赴き言葉を交わすのだという。
王も例に漏れずついこの間挨拶をしてきたばかりなのだ。
彼らを直接処罰しない理由はいくつかある。
一つは彼らが屈強なため戦争になると国にとっても大打撃をくらい、別の国から攻められる口実を作ってしまうこと、もう一つは彼らの創り出す馬乳酒や乳製品は絶品なことだ。
彼らの創るチーズはとても芳醇でどの国でも絶品とされている。彼らは定期的に酒やチーズを王に献上し、友好を計っているのだ。
もちろん、今までトラブルがなかったということもない。
ある国では遊牧民達と争いが起こり、多くの兵を死なせ、国力が低下してしまった。
ある国では争いにより便乗する略奪者が現れ、無法地帯へと成り代わってしまった。
そうした顛末を目の当たりにしているからこそ、事を慎重に運ばなければいけない。
王はよもやの展開を考え、兵達を訓練し、緻密な戦略を立てることにした。そして自身の剣や槍を今の動きのスピードに合うよう調節させていた。
王は若い頃から剣と槍の腕が立つと評判だった。
戦争になると我先に戦場へ赴き戦果を必ず穫って帰ってきていた。
それだけに街の者達は王を尊敬し、国の象徴だと他の国の者に自慢していたのだ。
それだけに今回の王妃と娘の無法とも言える行いは街の者にとっても口をつぐんでしまうほどのものだった。
王は今回の遠征を好機と捉えることにした。
うまく事を治めれば街の者の信頼も少しは回復するだろう。
そして、王妃と娘も少しは王を見直すのではないだろうか。
今は夢見事ではあったが、それだけの用意は万端、整っていた。
王は出来上がった剣を強く握り、一振りした。まるで今ここにある困難を振り払うかのように。王は無心に降り続けた。
遠征に出発する直前、思っても見ない事態に襲われた。
王妃と娘が城の貯蔵庫から金を盗んだというのだ。
門番は王妃からの申し出に「王の許可がないとお受けできません」と突っぱねていたのだが、王妃に付いていた男娼館の男が門番の持っている槍を奪い取り大けがをさせてしまった。
普通ならその男娼館の男を捕え断罪するのだが、王妃と娘は男を庇いそのまま逃がしてしまった。
王は怒りで震えていた。
今すぐ王妃と娘と男を呼びつけ処罰したい衝動にかられたが、その前にあの遊牧民達との問題を片付けなければならない。
道中、王はずっと頭を抱えていた。