レバ刺しを食わせろ

思ったことを間違ったまま書いている

かわいそうなおっちゃん 2

昨日来た男は街の鍛冶屋の若い主人だということはわかった。

その主人に昨日来た理由を尋ねると、昨日城に来たことは来たがそれは頼まれていたものを納めにきただけで、王にも会ってないし、品を納めたらさっさと帰っていったというのだ。

だとすれば、昨日王達が見たあの男は誰なのだろうか。

この鍛冶屋の主人が嘘をついていることも決して否めないが、実際その品を受け取った者は主人の言う通り、さっさと帰っていく姿を見たという。

王は直接その主人と話をしてみようと街に出ることにした。

街はとても賑わっている。

この季節には収穫祭が行われ、穫れたての野菜や果実、穀物、そこから醸造した酒などが街の路地に溢れている。

ああ、今年も大きな災害がなくて良かった、と王も含め、街の者達は安堵しきりだった。

途中で酒場を見つけ、穫れたてのブドウから作られたワインを1杯貰うことにした。

すると王の元に2〜3人の男がやってきた。王妃と娘の入り浸る男娼館の男達だ。

「王様、私たちにも1杯ごちそうしてくださいよ」

口ぶりから無礼な態度のこの男娼達に側近のものが思わず鞘を握っていたが、王はそれを止め、何も言わず男達にワインをごちそうしてやった。

王にとってもこの場は居心地の良い場所であったはずの酒場が、一気に酔いも冷め、不穏な空気がその場を支配している。

王は席を立ち、鍛冶屋の元へ急ぐようにした。

あの男達を処分すれば気持ちが楽になることは間違いないのだが、それも合わせて、今、王は王妃と娘の処罰に悩んでいるのだ。

鍛冶屋の近くに来た時、昨日の男、鍛冶屋の若い主人が王を待っていたとばかりに入り口の前に立っている。

男は昨日と一緒で、何も言わず、王を見つめているだけだ。

「私はそなたに会いに来た。一対一で話すのが条件なら言うことを聞こう。」

主人は王を2階へ来るよう促し、側近のものは下で待つよう王は指示を出した。

薄暗い部屋に王と鍛冶屋の若い主人は二人、見つめ合ったまま何も話そうとしない。

王に近くの椅子に腰掛けるよう促すと主人は隣りの部屋へ、1杯の水を差し出した。

「あなたは迷っている。」

主人はおもむろにそう言い放つとグイと水を飲み干した。

「そうだ、私は迷っている。なぜわかる? それとも私の表情を見たからなのか」

「違う。私は前からあなたが迷っていることを知っていた。そしてその答えも知っている。」

主人はとても穏やかな口調で王に話しかけている。

「答えを知っている? ではその答えとはなんだ?」

王は訝しげに主人を見ている。本当に分かっているのか、それとも最近の王妃と娘の評判を聞いてからの思いつきで話しているのだろうか、だとしたらこの男は何が目的なのだろうか。

「私がその答えを言ってもいいですが、あなたはその事で一層迷うことになる。それはダメだ。ですが、王様はその結末に向かっている。まず、私に会いにきた。後はしばらくして決断をするだけです。」

「決断?」

「そう。今度、また遠征があるでしょう? 今度の遠征はそんなに月日もかからないはずだ。7日もすればすぐ戻ってこられる。あなたはその時に決断をするはずだ。」

「なぜ君は秘密事項を知っている? どこかの国のスパイなのか? ではなぜ私に助言をするのだ!」

王は少し激高し、今にも主人につかみかからんとばかりの勢いだったが、主人が、

「それも遠征から戻ってきた時にわかるでしょう。」と言って水を汲みに隣りの部屋へ行こうとしたその時、王は立ち上がって引き止め問い詰めようとしたが、突然のめまいに襲われ、倒れ込んでしまった。