優しさとは
信号の無い、横断歩道でおばあさんが車が途切れるのを待っている。
いつもはそんなに往来の無い道なのだが、その日の、そんな時に限って車の往来が多く、おばあさんは、ただ、ひたすら車が途切れるのを待っている。
ああ、僕なら、新しいローマ法皇の選出で、なぜか2票入っていたという逸話を持つ僕なら、止まっておばあさんが横断するまで待っててあげるのに。
どれくらい、経ったのだろうか。
すごく長いような気もしたが、本当は1、2分の出来事なのだろう。
セダン型の車が横断歩道の前で止まった。
ガラスでよく見えなかったが、おじさんがおばあさんの為に止まったのだ。
おばあさんは余程嬉しかったのか、何度も何度もおじぎをして、車の前で止まって、何度も何度もお辞儀をしていた。
おじさんは照れくさそうに笑っていた。
おばあさんは何度も何度も車の前でお辞儀をしていた。
するとおじさんは窓を開け、
「ババァ、早く行きやがれ!ひき殺すぞ!」
と言い、何度も何度もお辞儀をしていたおばあさんは戦々恐々で素早く横断し去っていった。