1年の計
3年くらい前にパーマをやめた。
ハゲてきたから? 否
ただ単に飽きたからである。
僕はイメージができないと踏み出さない。
服装や身の回りのものが欲しいと思った時、自分がそれを身につけている(着ている)イメージがわかないと結局買わないことにしている。
イメージができて、買って、じゃあ失敗しないのかといったらそれは別で、失敗したことも数えきれないくらいあるが、それはそれで、自分のイメージが足りないって思うだけで、反省するのである。
パーマに飽きたのはもっと前なんだけど、自分が普通の髪型で、少しでもよく見えるといったイメージができない。ずっと1年くらいもがき続けて、ようやく切ったのである。
イメージが出来たからというわけでもなく、漠然として切ってみたのだ。
今もああでもない、こうでもないと試行錯誤している。
いつもイメージをしていて、あるゴール(髪型)にたどり着く。
そのプロセスを楽しみながら、そのゴールを目指して、少しずつ新しい自分への門戸を開くのである。
もうちょっとサイドを刈り込んで、
もう少しサイドを刈り込んで、
もう少しサイドを刈り込んで、
いくいくはモヒカンを目指そうと思っている。
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かわいそうなおっちゃん 5
王は馬車に揺られながら思案にふけっていた。
まるですべてを遮断するかのように、目を瞑り、誰にも声を掛けられることもなく、1日が過ぎていった。
途中、オアシスを見つけ、休憩することにした。
側近達は王をとてもきれいな水場へ王に口を潤すよう促した。
王は水をすくい口へ含もうとすると、どこからともなく小さな女の子が水を汲もうと、自分の半分くらいもあろうかというバケツを持ち、王の隣りで水を汲み始めた。
側近達はあわてて女の子を止めようとしたが、女の子は何が起こったのか分からず、ただ怯えているだけだった。
そして隣りにいる者が王だと知り、さらに怯え出したのだ。
側近達の大きな声を聞いたのだろうか、その女の子の母親と女の子よりは一回り大きな男の子を引き連れやってきた。
母親は王の姿に驚き、女の子が何か粗相をしたのかと大きな声で叱り、女の子の頬をずっとひっぱたいていた。さらにその父親であろう男がやってきて、母親を止めるのかと思えば、逆に母親より強い調子で、女の子の意識がもうろうとするまで殴り続けるのだ。
王はその姿に顔をしかめ、ついに止めようとしたその時、その女の子の兄であろう男の子が父親から女の子を引き離そうと父親の腕を噛んだ。
父親は驚き、しばらく立ち尽くしたが、王の前で恥をかかされたとでも思ったのか、さらに大きな声で怒り、今度は男の子を力一杯殴り続けたのだ。
王はその姿に辟易し、側近に父親と母親を捕えるよう促した。
男の子は顔中アザだらけになり、女の子も顔を腫らしながらずっと泣いている。
王はこんな親の元で育つより、他のものに育たせた方がこの子達にとっては幸せなのではないのだろうかと思案したが、この子達にも選ぶ権利があり、この子達に決めさせた方が良いのだろうと、子どもたちだけを王の前に呼び寄せ、
「お前達はこの親の元を去りたいか、それともこのまま親の元でずっと生活したいか」と、問いかけた。すると男の子が、
「親の元を去るならもっと前に出来ていました。でも、まだ妹が小さいし、僕もまだまだです。ただ、これだけは決めています。僕はこれからもっともっと強くなって近い将来父親と母親を殺します」
こんな小さな男の子にこんな思いがあるなんて思いもよらなかった。王は心底驚き、男の子の目をじっと見つめていた。
王は捕えたこの子達の両親を王の前へ連れてくるよう命じた。
父親と母親は処罰されるのではないかと恐れ戦き、ずっとうつむいている。
王は後ろ手にしばった縄をほどかせ、子どもたちを連れて帰るよう命じた。
男の子が帰る前、王は呼び止め、忍ばせていた短剣を男の子に渡し、「お前が事を成し遂げたとき、妹と共に私をたずねるがいい。悪いようにはしない。これは私をたずねる時に門番の者に見せるがいい。」
男の子はだまってうなずき、懐に短剣を忍ばせて妹と両親の元へ走っていった。
山科の大丸が閉店するらしい
大丸と言えば、
「デェマル」になるなあなんて思って。
本当に。
そう思っただけなんで。
山科の大丸に何の思い入れもないもんで。
かわいそうなおっちゃん 4
隣国の国境地帯に屈強な遊牧民達が居を構えていた。
遊牧民達は家畜を愛し、自由を好み季節が変わると住みやすい場所を求めて移動を繰り返すのだが、今の夏の季節は比較的涼しい王の国の領域内にいることが多く、事件はそこから起きた。
隣国の者が言うにはその国境近くで狩りを楽しんでいると突然遊牧民達が襲いかかり、数人程の死者と数十人程のけが人が出たというのだ。
遊牧民達を受け入れている諸国の王達はその時起こった彼らのトラブルはその国の者が責任を持つという取り決めをしていた。
だから遊牧民達がやってきた情報を得ると諸国の王達はわざわざ彼らのいるキャンプへ赴き言葉を交わすのだという。
王も例に漏れずついこの間挨拶をしてきたばかりなのだ。
彼らを直接処罰しない理由はいくつかある。
一つは彼らが屈強なため戦争になると国にとっても大打撃をくらい、別の国から攻められる口実を作ってしまうこと、もう一つは彼らの創り出す馬乳酒や乳製品は絶品なことだ。
彼らの創るチーズはとても芳醇でどの国でも絶品とされている。彼らは定期的に酒やチーズを王に献上し、友好を計っているのだ。
もちろん、今までトラブルがなかったということもない。
ある国では遊牧民達と争いが起こり、多くの兵を死なせ、国力が低下してしまった。
ある国では争いにより便乗する略奪者が現れ、無法地帯へと成り代わってしまった。
そうした顛末を目の当たりにしているからこそ、事を慎重に運ばなければいけない。
王はよもやの展開を考え、兵達を訓練し、緻密な戦略を立てることにした。そして自身の剣や槍を今の動きのスピードに合うよう調節させていた。
王は若い頃から剣と槍の腕が立つと評判だった。
戦争になると我先に戦場へ赴き戦果を必ず穫って帰ってきていた。
それだけに街の者達は王を尊敬し、国の象徴だと他の国の者に自慢していたのだ。
それだけに今回の王妃と娘の無法とも言える行いは街の者にとっても口をつぐんでしまうほどのものだった。
王は今回の遠征を好機と捉えることにした。
うまく事を治めれば街の者の信頼も少しは回復するだろう。
そして、王妃と娘も少しは王を見直すのではないだろうか。
今は夢見事ではあったが、それだけの用意は万端、整っていた。
王は出来上がった剣を強く握り、一振りした。まるで今ここにある困難を振り払うかのように。王は無心に降り続けた。
遠征に出発する直前、思っても見ない事態に襲われた。
王妃と娘が城の貯蔵庫から金を盗んだというのだ。
門番は王妃からの申し出に「王の許可がないとお受けできません」と突っぱねていたのだが、王妃に付いていた男娼館の男が門番の持っている槍を奪い取り大けがをさせてしまった。
普通ならその男娼館の男を捕え断罪するのだが、王妃と娘は男を庇いそのまま逃がしてしまった。
王は怒りで震えていた。
今すぐ王妃と娘と男を呼びつけ処罰したい衝動にかられたが、その前にあの遊牧民達との問題を片付けなければならない。
道中、王はずっと頭を抱えていた。
かわいそうなおっちゃん 3
気がついた時はベッドの上だった。
側近の者があまりにも遅いと業を煮やして王のいる2階へ上がったところ、倒れているのを発見し、慌てて城へ連れ戻ったとのこと、鍛冶屋の若い主人はその後に作業場に戻ってきたところを捕えたという。
ただ、鍛冶屋の若い主人は何が起こったのかも分かっておらず、なぜ捕えられたのかも分からずただ、戸惑っているらしい。
王はゆっくり起き上がり、その男のいるところへ案内するよう指示をしたのだが、先ほどの件が頭にあるのか、王が鍛冶屋の若い主人に会うことに反対している。
「捕えられているなら安全ではないか」
王は憤慨し、別の者へ男のいる牢へ案内するよう促したが、誰も王を案内する者はいなかった。
夜半、王は牢番をしている男にいくつかの金貨を渡しその主人のいる場所へ案内させた。
鍛冶屋の若い主人は憔悴しきった様子で、眠れないでいるのだろう、毛布にはくるまっていたが目はずっと見開いたままだった。
「鍛冶屋の主人よ、今一度話をしようではないか」
王はゆっくりとした穏やかな口調で主人を見やりながら言うと、鍛冶屋の若い主人は王に気づき、まるで今にも泣きそうな顔で王に訴えた。
「私は何をしたのでしょうか。私の作業場の近くで何か騒いでいると急いで帰って来ると捕えられました。王に危険を犯した、と。私にはまるで見当もついていません。」
王は何も言わずただ男を見ていた。
「私は帰ってくるまで街の外れの家々をたずね、そこの包丁や金物を研いでいました。その町外れの人たちに聞いてくれれば無実だと言うことが分かります。私は何もしていません」
王は男の話す間、男の奇妙な様子に戸惑っていた。
確かにあの時私と話した男と今、ここにいる鍛冶屋の若い主人は似てはいるが何か違和感を感じる。何か、目の輝きが、私と対峙していたあの男とは全く違っていた。
だとするとあの男は一体誰なのだ?
「わかった。明日牢から出してやろう。私と側近の者達はどうやら勘違いしていたようだ。」
鍛冶屋の若い主人は安堵の表情で王がその場から去るまで、ずっと頭を下げていた。
約束した通り、次の日、鍛冶屋の若い主人は釈放された。
ただ、全ての疑念が晴らされたわけではない。
王は側近のものにしばらく鍛冶屋の若い主人の動向に注視するよう命じた。
あと3日すればまた遠征に出なければならない。
その間に劇的に解決してくれないだろうか。王は誰の目からもはっきりとわかるような苦悩の表情で帰っていく鍛冶屋の若い主人をただ見つめていた。
かわいそうなおっちゃん 2
昨日来た男は街の鍛冶屋の若い主人だということはわかった。
その主人に昨日来た理由を尋ねると、昨日城に来たことは来たがそれは頼まれていたものを納めにきただけで、王にも会ってないし、品を納めたらさっさと帰っていったというのだ。
だとすれば、昨日王達が見たあの男は誰なのだろうか。
この鍛冶屋の主人が嘘をついていることも決して否めないが、実際その品を受け取った者は主人の言う通り、さっさと帰っていく姿を見たという。
王は直接その主人と話をしてみようと街に出ることにした。
街はとても賑わっている。
この季節には収穫祭が行われ、穫れたての野菜や果実、穀物、そこから醸造した酒などが街の路地に溢れている。
ああ、今年も大きな災害がなくて良かった、と王も含め、街の者達は安堵しきりだった。
途中で酒場を見つけ、穫れたてのブドウから作られたワインを1杯貰うことにした。
すると王の元に2〜3人の男がやってきた。王妃と娘の入り浸る男娼館の男達だ。
「王様、私たちにも1杯ごちそうしてくださいよ」
口ぶりから無礼な態度のこの男娼達に側近のものが思わず鞘を握っていたが、王はそれを止め、何も言わず男達にワインをごちそうしてやった。
王にとってもこの場は居心地の良い場所であったはずの酒場が、一気に酔いも冷め、不穏な空気がその場を支配している。
王は席を立ち、鍛冶屋の元へ急ぐようにした。
あの男達を処分すれば気持ちが楽になることは間違いないのだが、それも合わせて、今、王は王妃と娘の処罰に悩んでいるのだ。
鍛冶屋の近くに来た時、昨日の男、鍛冶屋の若い主人が王を待っていたとばかりに入り口の前に立っている。
男は昨日と一緒で、何も言わず、王を見つめているだけだ。
「私はそなたに会いに来た。一対一で話すのが条件なら言うことを聞こう。」
主人は王を2階へ来るよう促し、側近のものは下で待つよう王は指示を出した。
薄暗い部屋に王と鍛冶屋の若い主人は二人、見つめ合ったまま何も話そうとしない。
王に近くの椅子に腰掛けるよう促すと主人は隣りの部屋へ、1杯の水を差し出した。
「あなたは迷っている。」
主人はおもむろにそう言い放つとグイと水を飲み干した。
「そうだ、私は迷っている。なぜわかる? それとも私の表情を見たからなのか」
「違う。私は前からあなたが迷っていることを知っていた。そしてその答えも知っている。」
主人はとても穏やかな口調で王に話しかけている。
「答えを知っている? ではその答えとはなんだ?」
王は訝しげに主人を見ている。本当に分かっているのか、それとも最近の王妃と娘の評判を聞いてからの思いつきで話しているのだろうか、だとしたらこの男は何が目的なのだろうか。
「私がその答えを言ってもいいですが、あなたはその事で一層迷うことになる。それはダメだ。ですが、王様はその結末に向かっている。まず、私に会いにきた。後はしばらくして決断をするだけです。」
「決断?」
「そう。今度、また遠征があるでしょう? 今度の遠征はそんなに月日もかからないはずだ。7日もすればすぐ戻ってこられる。あなたはその時に決断をするはずだ。」
「なぜ君は秘密事項を知っている? どこかの国のスパイなのか? ではなぜ私に助言をするのだ!」
王は少し激高し、今にも主人につかみかからんとばかりの勢いだったが、主人が、
「それも遠征から戻ってきた時にわかるでしょう。」と言って水を汲みに隣りの部屋へ行こうとしたその時、王は立ち上がって引き止め問い詰めようとしたが、突然のめまいに襲われ、倒れ込んでしまった。